レポート No.06

Fake Story

作者 s2
ゲームシステム名 システム全般
シナリオ傾向 嘘と愛
プレイ難易度 B又はD

はじめに

 さて皆さん、準備はできましたか?  このシナリオソースはある嘘を遠因として起きそうになる悲劇を扱う物です。とは言っても大丈夫、ちゃんとPCの努力次第でいい方向に向けられますから、「自己満足だ!」と責められる心配はありません。
 ……と言うのは嘘です。扱うのは嘘ではなくて「擦れ違い」と言った方がいいでしょう。それから、致命的な弱点を残しておきますので、このままやるとプレイヤーに怒られます。頑張って補完してください。
 このシナリオソースの難易度は「B又はD」です。「B〜D」ではありません。勘違いしないでくださいね。以下の話にある[少女N]をPCにするか否かで難易度が変わります。PCにした場合は難易度B、しない場合は難易度D、というわけです。これについては、物語の概要を話した後、もう一度少し詳しく論じますね。
 PCには何か人を楽しませられる芸が、一つあるといいでしょう。音楽、踊り、お話、などなどです。これを持つ人を[PC1]とします。

バックグラウンド・ストーリー

 まずは、シナリオ開始時点の前のことをお話しましょう。物語は普通、「これから何が起こるんだろう?」という要素と「一体何が起こったんだろう?」という要素の組み合わせで出来ていますが、「一体何が起こったんだろう?」への回答の部分ですね。セッションの半分は、これを徐々に明らかにしていくことで進むわけです。

[少年G]の約束
 さて、前置きが長くなりましたので、急いで中身に入っていきます。ことの発端は[民族A]が[民族B]のある村を侵略し、支配してしまったことです。その結果[民族B]は[民族A]に隷従を強いられ、ただただ年貢を収めることを要求されるようになりました。その状態に我慢ならなくなった一人の[少年G]が、やがて、その村を飛び出します。仲のよかった[少女M]に「……必ず、戻って来るから、そうしたら一緒に……」と、[民族B]の村人皆に「必ず[民族B]を解放する手立てを携えて来る」と、言い残して(これが最初の嘘です)。以来、村人は[少年G]の期間を心の支えに、何とか[民族A]に年貢を納め続けます。

[少女M]と[少女N]の出会い
 しかし、[少女M]はそのことに堪えられず、ある野望を胸に村を去ります。その野望とは「[民族A]の社会で相応の地位について、この村の年貢取立て係になる。そして村人を守る」です。しかし、これは、誰にも言いません。さて、この[少女M]が村を出て少しした頃、また別の女の子と会います。そこで[少女M]はあることを思い付きます。「自分に果たして、[民族A]の社会でのし上がるだけの力があるだろうか? いや、力ではない、覚悟が必要なのだ。だからその第一歩として、わたしはまず、自分を捨てよう」。ちょっと論理としては破綻していますが、まあ適宜補ってください。重要なのは、自分を捨てようと思った[少女M]が出会った少女に自分の名前を与えることで、その覚悟を決めようとすることです。名前を与えられた少女を、アルファベットを一つだけ下って[少女N]と呼ぶことにしましょう。それから、[少女M]から[少女N]に受け継がれた名前は「[少女M]の名前」と書くことにしましょう。

[少女M]の帰還
 その後[少女M]は覚悟の賜物か能力ゆえか偶然か、[民族A]の社会での地位を手に入れ、故郷の村に「年貢取立て係、村人の監督官」として、戻って来ることになります。ところが彼女は自分が[少女M]であることを誰にも告げず、なるべく村人の前に姿を見せず、淡々と年貢を取り立てます。もし村人と会うことがあれば、何らかの形で顔を隠すでしょう(仮面、包帯、魔法など)。何故こんなことをするのでしょう? それは、彼女が年貢を少しずつ軽減し、取立て高の少なさに不満を持つ「中央」と戦っているからです。もし査察官がやって来て[少女M]がにこやかに村人と接しているのを見たら、査察官はどう思うでしょう? 癒着があった、と判断するわけです。それを避ける為に、彼女は敢えて村人と接することはしないのです(これが二つ目の嘘です)。段々と年貢が軽くなっているにも関わらず、「喉元過ぎれば」と言いましょうか、村人はそれでも年貢取立て係である[少女M]には強い敵意を抱き続けます。早く[少年G]に戻って来てほしいと願いながら……。

[少年G]の現状
 一方その[少年G]は何をしているのでしょうか。実は何もできていません。力を付けると言ったはいいものの、結局力を付けられなかったのか、故郷より他に大事な物が出来てしまったのか、とにかく故郷に戻ることなく、事切れてしまいます。PCに「一つだけ心残りが、吐(つ)いた嘘があるんだ……」と言い残して。

 ここまで記してしまえば、シナリオソースとしては充分な気もしますが、一応プロット程度は作ってみますね。ちゃんと、これに、自分なりの物を加えたり隙間を埋めて「シナリオ」にしてください。

導入

 PC(少なくともその一人。[PC1]としましょう)は[少年G](もう少年ではないかもしれませんね)に遺言を託されます。元々そういう仲が出来上がっていたのか、たまたま末期の時にPCが傍にいただけなのか、それは問いません。遺言の内容はこうです。

・自分は、大昔、嘘を吐いたことがある。
・それが心残りで死ぬに死に切れないのだが、それでももうすぐ死んでしまう。
・PCにそれが嘘だったと言うことを伝えてほしい。
・嘘の相手は([少女M]の名前)という名前の女の子だ。それと、故郷の村人達。
・嘘の内容は上述の一つ目の嘘である。
・村人達は、自分が吉報をもたらすことを信じて、日々堪えているだろう。
 以上です。これを言うと彼は死にます。もし[PC1]と[少年G]に関係が無かった場合、「[少女M]に会ったらこれも伝えてほしい」と、音楽、踊り、又はお話などを伝えます。既に付き合いがある場合は、音楽などを見せる機会がありますから、その時に「そういえば[少年G]が教えてくれたものだったな」と思い出すことになります(プレイスタイルによる物ではありますが……)。
 これを受けてPCは[少年G]の故郷を目指して旅立ちます。

展開

 [民族B]の村に入る少し前、[少女N]を旅の仲間に加えます(経緯は考えてくださいね)。彼女の名前も([少女M]の名前)です。[少女N]は「以前、人に貰った名前だ」ということは言っていいでしょう。
 さて、村に着くと[少女M]が歓待してくれます。しかし、名前は違いますし、顔は分からないようにしてあるため、[少女N]は自分の名前の、元の持ち主であることに気付きません。尋ねられても「([少女M]の名前)なんて知らない」と彼女は言うでしょう(これが三つ目の嘘です)。[少女M]はPCに一芸あることを知ると、村人を慰めてやったほしいと頼みます。自分ではできないから、と。
 実際に村人に芸を見せると、「それは見たことがある、昔村にいた[少年G]という男の子が『忘れてしまった記憶を取り戻す芸』だと言っていた」とのことです(四つ目の嘘)。ただ、[少年G]はこの村では嘘吐きで通っていたので、誰も信じなかったそうです。ただ、信じていたかどうかは分かりませんが、[少女M]がとても好んでいた芸で、[少年G]はよく彼女に見せてやっていた、と村人は言います(この芸は何らかの魔法的な力がある物ではありません)。
 それは別として、村人は、[少女M]は今はいないと言います。[少年G]の伝言を伝えると絶望します。そして一揆を企てます(必要なら一揆を決意する過程も描いてください)。
 しかし、この村には[民族A]の査察官が向かっています(それなりの武力を持たせてください。それから、彼等が来るとことの伏線も、事前に張っておきましょう)。順当にいくと一揆が起こるかその直前で村に着くでしょう。もし一揆がばれては、村人は皆殺しに会うでしょう(ちょっとやり過ぎでしょうか……)。([少女M]のせいで)年貢の収める量が少ないのですから、いい口実にもなります。
 PCこれをどうするでしょうか。一揆に加担するか[少女M](必ず村人の為を思って行動してくれます)に相談するか、一揆を止(や)めるよう説得するでしょうか。これは面白い選択だと思います。

結末

 結末は上の選択の結果によって色々と変わると思います。査察官の性格にもよるでしょう。
 村人をこの村から逃がしたり、村人と査察官、そして[少女M]が和解してハッピーエンド、村人全滅のバッドエンド、[少女M]がいなくなって村人の税は増えるも命は助かる、査察官を追い払って[民族A]へのレジスタンスを結成すると言った中間的エンディングなどが、すぐに考えられるエンディングです。
 事前にシステムや自分のスタイル、プレイヤーの好みに合った物を考えたり、その場の閃きに任せたり、いっそプレイヤーに直接相応しい物を尋ねるのもいいかもしれません。

PCの立場とシナリオ難易度

 さて、「始めに」でお約束した通り、シナリオの難易度についてお話しましょう。
 PCが全員、仲がよかったり利害が一致したりして、共に行動している場合、話は簡単です。上で[PC1]となっている所を「PC全員」と読み替えてもらえればいいだけです。この場合[少女N]は、セッション途中で合流するNPCです。難易度はDになります。
 PCが別々の立場を持ち、知り合いであると仮定できない場合、GMは難しくなります。[少女N]もPCの一人になります。当然、[PC1]も一人のPCです。他に「村人」「監督官の部下」「査察官(特に難しい)」「たまたまやって来た[民族A]」などが考えられます。この場合は話をまとめるのも難しいですし、GM一人では限界があり、プレイヤーにも「面白い物語を作る」という積極的な意志が無いと失敗することになります。ただ、だからこそ巧くいった時は充実感がある、と言えるでしょう。難易度はBです。この場合[少女N]のPCの名前がシナリオタイトルになりますので、そのことを告げてでも、よくよく考えて付けてもらいましょう。

重大な注意

 一読しただけでは気付かないでしょうから、言ってしまいます。実はこのままシナリオにすると、重要な欠陥を孕んだ物になってしまいます。と言うのも、PCが村に行かなければ、問題は発生しないからです。どうでしょう、気付きましたか? この解決は中々難しいと思います。わたしも二つしか方法を思い付きませんでした。
 一つは「例え希望を与える物でも、嘘はよくない」という世界観を持ったシステムを使うことです。
 もう一つは、「年貢の取立て高が少ないのだから、いずれごまかし切れずに、この村は何らかの処罰を受けるだろう」という設定にすることです。
 あと、お勧めはしませんが、このままやってPCに後悔させるというのもあります。相手をよく見る必要がありますが……。

終わりに

「年貢」という表現を使ったためにファンタジー世界、というよりは過去の地球をモチーフにした世界を想定してしまうかもしれませんし、実際想定して書きました。でも、そこを読み替えることで、現代や近未来舞台の物にも変えることができます。『ラビッツ&ラッツ』や『ガープス・ミステリアスキャッツ』にも対応できると思います。是非試してみてください。
 ところで、このシナリオソースには、物語の進行には関与しないある事件があります。[少女M]の涙です。もし、セッション中、PCが[少年G]から伝えられた「一芸」を、[少女M]の目に触れさせることがあれば、彼女は涙を流します。それは「忘れてしまった記憶を取り戻す芸」、即ち[少年G]との思い出を、まざまざと思い出させる物だからです。美しい話だと思いませんか? ……はい、その通りです、わたしの趣味です。個人的には、この場面さえ演出できれば、結末なんてどうでもいいです(笑)。
 その後[少女M]がどうするか、正体を明かすか飽くまで監督官として振舞うか、PCにだけこっそりと真相を話すか、それもGMやプレイヤーの趣味によって決めてください。

(2006年7月21日/s2)
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