フアンタジー世界を演じるにあたっての
    西洋中世都市思想

水たまりの深さは、深みにはまってみるまでわからない。
    ──ミラー


 1.始めに

 時々、ファンタジー世界のゲームをしている時に「中世ヨーロッパではこうであるはずだ」とか言って、設定にけちをつけてくる奴がいたりする。
 まあ、リアリティのある世界観の方が想像力がかきたてられるのは確かだが、それが教条主義やひとりよがりになってはいけない。
 自分がマスターをやっている時にそのようなことを言う人がいたら(周囲が迷惑しない程度に)有り難く拝聴した上で、それはそれと置いといてゲームを進めるべきだろう。それでもうるさく言ってくるようだったら、「私の知っている知識とは違うのですが、それはどの時代のどの地域の話なのですか?」とでも言いかえせば、よほどの恥知らずでも自分の発言の愚かさを知ることになるであろう。

 まあ、この様に過剰な情報主義(歴史マニアやQ&Aマニアなど)はゲームの本質を失うことも多いが、TRPGが想像力のゲームである以上、多少の前認識があった方が世界が膨らみアドリブでも機転が利くようになるのは確かである。
 前置きが長くなったが、そういうことを考えつつ、歴史的な知識・認識について浅学ながら紹介していきたいと思う。
 

 2.中世ヨーロッパにおける都市

 まず最初に、中世都市とは何であるかを考えてみよう。都市を構成する要素として最重要なものが「城壁」と「市場」、そして「法」である。
 ここにおいて「城壁」とはただ物理的なものだけではない。西洋の伝統的な思考では自己と他者、内と外の分離というものが重視される。そこにおいて城壁とは都市と外部、人間の領域とその外部、法による共同体とその及ばぬところとを隔てるものという意識を表すものなのである(余談だが、タブーとは内でも外てもなく境界線上のものであるが故に忌まれるという見方もある)。
 次に「市場」。これについてはいうまでもないが、この市場によって都市は形成され、その権利の運用の為に都市の展開が方向づけられるということは重大な意味を持つのである(我々の想像以上に当時の貨幣流通は重要であった)。
 そして「法」。中世都市というと自治とか自由という言葉が思い浮かぶ為、みんな「法」の重要性にピンとこないところがあるかも知れないが、その自治とか自由の正体こそがこの「法」である、(これは都市に限らないことだが)この時代において、成文法(慣習法文書)の成立こそが人々の自由と権利を保証するものとなうたのである。
 これらの、一見するとあまり特別なこととは思えない要素こそが、西洋中世都市において根元的なものであるというのは何故だろうか?
 

 3.西洋の考え方

 それは、これらが西洋の思考に深く関わっているからである。ここで西洋の思考について少し考えてみよう。
 生活文化が違えば物事の考え方が違ってくるというのは言うまでもないだろうが、具体的にそれはどのような形であらわれてくるのか。
 そこで「峻別」「共同体」「契約」という概念を提示しておこう。
 まず「城壁」の所で述べたことに関連するが、西洋と東洋の違いとして良く言われるのが自然との付き合いかた……東洋は自然と人間を一体に考えるが、西洋においては自然とは対立・克服するものであると言う認識がある。この自分たちと他のモノとの「峻別」が様々な考えに根付いているのである。これはまた、他者を規定することで自己を認識しようという試みなのかも知れない。
 そしてその中で内輪と外部を見極めなければならなくなる。特に民族の移動が激しい大陸においては信頼できる内輪とその関係性が必要となる……それが「共同体意識」の形成となる。
 そして人が「共同体」や外部、そして「神」とつきあう為に必要な取り掛かりとして「契約」と言う関係が求められるのである。これは「法」による関係であうて、ルールのうえに乗ったフェアな関係性であり、相互責任の関係性である。
(以上の「峻別」「共同体」「契約」の順番は逆だったり相互的なものであったりするであろうが、まずそれはよしとしておく)
 

 4.ギルド

 以上のように、西洋思考と都市の形成には結びつきがあり、例え、通常使われる言葉・物でもその意味するところは違ってくるのだ。
 まあ、話が少し観念的になり過ぎたので、具体的な話に移ろうと思う。都市を理解するために必要なこと、その第一はキルドの概念であろう。よくゲームに盗賊ギルドや冒険者ギルドと言うものがでてくるがそれらが一体何なのか考えてみたことはあるだろうか?

 分かりやすく言えぱ同業組合である。もともとは貢納や供犠等の為の相互扶助組織であったという。そして商人や手工業職人の同業組合として、中世都市社会の重要な構成要素となっていったのである。
 このギルドというものは都市から自由競争というものを排除した……中世都市のスケール(人口数千人程度)には限界があるために……そして、相互の保障を行った。家族や病人、障害者の面倒をみたというのは、この時代におけるギルドという存在の果たす意味というもの重大さを示すことになるであろう。また、製品の保証もギルドの役目である。他にもギルド専用の酒場がつくられたりとギルド員は都市で生きるというよりもギルドの世界で生きているといっても過言ではないだろう。

 それに対して、ゲームによくでてくる盗賊ギルドというものは何であろう……まあ、有り体にいうと犯罪組織、ヤクザやギャングのようなものであろう。まあ、(昔からの犯罪組織もあるだろうが)都市には近くの農村からの若者や難民、遍歴職人など多くの人々が集まってきた。その全てが都市に受け入れられる訳でもなく、街壁の外(法の及ばぬ地域)にもう一つの町が形成されていく。
 そこには多くの無法者も集まり、そのうちに犯罪組織が形成されていくのは自明の事であろう。彼らがドヤ街の法となり、労務者等の世話をすることになる。傭兵なども、(傭兵団に入っていないのなら)仕事の斡旋などで盗賊ギルドのお世話になることになる。
 まあ、健全なゲームとしては仕方ないかも知れないが、私としてはもう少しリアルティのある盗賊キルドを見てみたい気もする(管原文太や勝新のファンとしては)。
 

 5.最後に

 他に都市といったら城壁や法や流通、職人の生活と祝日や都市の豚など色々話したいこともあるがそれはまたの機会に譲ろう。
 まあ色々話してなにか焦点が分からなくなうたようだが、中世都市の中には様々な庶民の生きざまがある。それを表現する事で生活感・存在感をだし、それによってPCたちに生命を与えることができるのではないかと思う。その為にも庶民の世界観に少しでも触れてもらいたく思い、この文を綴ったのである。
 必要なのはただのリアルではなく、想像力と論理性から生じるリアリテイ(世界観の構築)なのだ。
 この文がその為の手助けになればと思う。
 

【ヨーロッパの伝統的な考えを知るためにお手軽でお薦めの本】

*肉食の思想(中公新書)
 結構古くて、そのまま鵜呑みにするには問題あるかもしれないが、西洋の思想の原形を探るためには一度読んでおくべき本だと思います。
*絵の言葉(講談社学術文庫)
 絵というもの、言葉というもの、認識というものについて西洋と日本の違いを対談形式で述べた本。かなり気軽に読めます。
*中世の星の下で(ちくま文庫)
 中世西洋社会史で名高い阿部謹也が紹介する中世の庶民の姿。上の2冊と比べ具体的な逸話が多く、中世ヨーロッパのディテールを知りたいならオススメです。


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