シナリオ作成上の注意点

「できるわけがない」という人は、それをやっている人の邪魔をしてはならない。
    ──ローマ法より


 RPGの楽しさの中核になっているのは世界観でもルールでもなく、シナリオであるということは、今さら言わなくてもわかっていると思う。しかし、マスターにとってシナリオを作ることは簡単ではないことも確かだ。シナリオを作るとき、元ネタをどこから持ってくるか、NPCをどう作るかなどは、マスターによって様々だろう。こういったこと関しては、正解などない。
 しかし、シナリオを作成する上で、最低限必要なことが存在するするのも確かである。一般的なことは他でいくらでも見聞き出来るだろうから、ここでは、熟練者でもやってしまいがちな間違いに関して注意を喚起しておきたい。
 

 1.選択肢を作ること

 RPGはゲームであり、ゲームとは意志決定の連続によって成立している(たまにスゴロクみたいな意志決定のないゲームもあるけど)。一本道シナリオは、マスターがプレイヤーに自分好みのストーリーを押しつけていることに他ならない。必ず最低でも2つ、出来れば3つ以上の分岐点を作り、選択によって結果が変わるようにすること。

 <具体例>
【GM】:……ということで、彼の魔術によって死ぬことすら出来ずに苦しみ続けている村人を救うには、2つの方法がある。第一に、村人を殺してあげることだ。このためには、隣町にいる法の神官に頼んで法の神に介入してもらう必要がある。まあ、これが一番確実な方法だ。
【PC1】:あ、それはダメ。せっかく助けた娘を殺す気はない。
【PC2】:もう1つの方法にかけることにしよう。で、もう1つは?
【GM】:もう1つの方法は、この洞窟の奥にある混沌の剣を使って何の罪もない女子どもを殺してまわること。1人殺すごとに1%の確率で村人が助かる。ただ、法の神官は1人で50人分として扱われる。まあ、この近辺には法の神官は1人しかいないけど。
【PC3】:……。やっぱり何の関係もない人を殺すことはできないだろ。
【PC1】:でも、村を助けるには……
【GM】:じゃあ、意見がまとまって、どうするか決まったら教えてくれ。
(最初のうちは、このくらいはっきりと選択肢を明示した方がいいでしょう)

 ただし、RPGは行動の自由が保障されているゲームのため、マスターが提示した選択肢以外の道を選択することや、予定外の行動を行うこともある。こういった場合、決してプレイヤーの行動を制限させるのではなく、「予想通りの行動である」という表情で、アドリブで対処することが望ましい。まあ、当惑した表情を隠さなくても、対応しようとする努力は必要である。
 常識ではあるが、「予定にない」という理由でPCの行動を制限してはいけない。

 アドリブは難しい技術であり、うまく行うには経験を積む必要があるが、最初に対策を立てることもできる。それは、逆説的であるが、設定を詳しく作っておくことである。無からアドリブを行うことは、キャリアを積んだマスターにも難しい。しかし、登場人物や場所の設定を細かく作っておけば、予定外の状況に陥っても、自然とNPCの行動等が思い浮かぶはずである。
 

 2.目的と方法

 シナリオは、小さな目的を一つ一つクリアしていくことによって成立している。この小さな目的は、必ず提示する必要がある。もし提示されていなければ、PCは何をすべきかわからなくて、困惑するだろう。いきなり何もないところで「何をする?」と聞かれても、PCにとっては困るのである。

 また、目的があっても、手段が見つからなければどうしようもない。その手段も、選択肢としていくつか提示しなければ、一本道シナリオへの道を突き進むことになる。ただ当然ながら、マスターが提示した選択肢以外の行動をとってもかまわない、という姿勢は捨ててはいけない。

 <悪い例>
【GM】:そのとき、格納庫が開いて戦車が出てきた。例の部隊のマークが付いている。主砲がこっちを向き始めた
【PC1】:うわ、やばい。破砕手榴弾を投げます。投げは成功。ダメージは…11点。徹甲力は5。
【GM】:煙が晴れたとき、そこには無傷の戦車がいたりする。(実は戦車は未完成だから、回り込めば後ろに装甲がほとんどないことに気づくんだけどね。)
【PC2】:俺は逃げるぞ。
【PC1】:同じく。こんな化け物と戦ってられるか!
【GM】:甘い。出口はいつの間にか閉じていて、鍵がかかっているようだ。(だから、回り込めばいいのに)
(マスターが選択肢を用意していても、プレイヤーがそれを知らなければ選択肢がないも同じ)

 目的がないのに手段が提示されていても、何もする気は起きない。手段がない目的では、行動のしようがない。この2つがプレイヤーに常に提示されていることが、プレイをだらけさせないための条件である。
 

 3.謎解きについての誤解

 「戦闘は野蛮だ」と言って、問題解決に戦闘を出来るだけ使わないシナリオを作る人もいる。悪くはない。しかし、そのために無意味な謎解きを出すのは考えものである。
 例えば、ダンジョンなどの中で、作った意図も意味もわからないような謎解き(なぞなぞのようなもの)を出されても、時間稼ぎにはなるが、シナリオの質は逆に低くなる。謎解きは展開上、シナリオに深く関連しているものだけにする必要がある。

 <悪い例>
【GM】:地図上で迷宮の入口とされている場所には大きな石碑が建っていて、下位古代語で何かが書かれている。
【PC1】:あ、俺、下位古代語なら読める。
【GM】:じゃあ、石碑には次のように書かれている。「3人のグラスランナーと3匹のゴブリンが、一緒に旅をしている途中に川に行き当たった。岸には小さな2人乗りのボートがあったが、6人全員が向こう岸に渡りたい。ただし、ゴブリンはグラスランナーよりも人数が多くなると、グラスランナーを食べてしまう。どうすれば、全員無事に向こう岸にたどり着けるか?」
【PC2】:これを解かなければダンジョンに入れないわけかよ。
【GM】:そうらしいよ。じゃ、がんばって考えてくれ。
(よく見かける風景だけど悪い例です。ところで、この問題は解ける?)

 また、プレイヤーはマスターほど情報を持っていないため、マスターが「これくらい解けるだろう」と考えても解けないものである。ヒントは同じものを2〜3のルートで手に入れられるようにし、ヒント自体の数もマスターが最初考える数の倍は用意したい。


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